鹿、鹿、鹿革!その①

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さて、皆様。

突然ですが、私のとても好きな革素材がございます。それが鹿革です。

その中でも起毛させたものは特に好みです。

これは履いたことがある方でなければわからないかもしれませんが…

とっても柔らかいのが特徴で、その柔らかさたるや最上のカーフスエードをもってしても比ではありません。

羊の革ほど柔らかすぎず、しっかりとコシとハリはあるものの、柔らかさはカーフよりもあるという、実用革としては最も優れた革なのではないかと思うほど良い革です。

毛足がながくフワフワとした見た目、質感は鹿の起毛革最大かつ唯一無二の特徴です。

今、スエードの靴をご検討されている方は、まず一度ワールドフットウェアギャラリーに鹿スエードの靴のお問い合わせを願います。

本当に良い革なんです。鹿スエードをお選びいただけましたら、後悔させない自信がございます。

写真ではお伝えが難しいのですが、上の写真の青く囲ったところについている、やや濃い目の直線が履き皺です。

鹿の起毛革の履き皺はこのように、そこだけ色味が濃くなるのです。これが牛革とは決定的に違う経年変化であり、とても魅力的です。

そんな鹿革ですが、実は鹿の起毛革には幾つかの種類がありますので、それをご紹介します。


鹿革の種類

①Buck(バック)

特に銀面(表側)を起毛させて仕上げる「バックスキン」は正真正銘のバックスキンでございます。

これを英語でBuckと書きます。雄鹿という意味があります。

革靴の世界では、このBuckというのは非常に希少な存在となっています。

著名なビスポークメーカーがバックスキンで靴を作った写真をインスタグラムで見かけることがありますが、質の高いBuckはそれくらい希少で手の届かないものとなってしまいました。

「幻の革」といっても大袈裟ではないと思います。

さて、よくスエードのことを「バックスキン」といいますが、本来の意味から考えると、誤用ということになります。

Buckは起毛革なので、後述する裏革=BACKの起毛革、つまりはスエードと混濁されてしまう要因となってます。

カタカナにすれば全く同じ「バックスキン」なので、混濁されてしまうのも無理はありません。

スエードのことを「バックスキン」と呼ぶ方も多いですし、実際そう言われれば私たちは普通にスエードの靴をお出しします。

わざわざ「いえ、バックスキンというのは本来はですね…と、いうわけですからお客様の言っているのは…」なんていう無粋な受け答えは致しません(笑)

②Deer(ディア)

さて、もう一方、肉面(裏側)を起毛させて仕上げる、つまり一般的なスエードと同じく仕上げた鹿革のことを「ディアスエード」といいます。

英語で書くとDEER、雌鹿のことをいいます。

非常に希少な鹿革ですが、起毛革として出回るのは、スエードになっている「ディアスエード」です。

また、シューメーカーによって多少差はありますが、特に何の加工もしていない鹿のスムースレザーも雄も雌もひっくるめて「ディアスキン」と呼ぶことが一般的です。

③Stag(スタッグ)

すでにマニアックな話ですが、ここでさらにマニアックな話をすると「成長した雄鹿のスエード」は「スタッグスエード」といいます。Deerではないんです。

英語でStagと書きます。なじみがない言葉ですが、スタッグビートルというと英語でクワガタムシのことです。スタッグというのは「角」を言葉の意味に含んでいる言葉のようですね。

ただの雄鹿ではなく、成長した雄鹿というのがポイントのようです。

雌は角は生えませんが、雄の鹿は成長にするに従い、立派な角を持つようになります。

このスタッグスエードの靴ですが、60年代~70年代製造の旧エドワードグリーンやビンテージのトリッカーズなどでごく稀に見かけます。

冒頭の写真の靴は、筆者私物の古いトリッカーズのスタッグスエードの靴になります。

製造当時からもレアなアイテムであったことは間違いないようで、ビンテージ市場では非常に珍重されています。実際に球数も少なく、今出てくると高値がつくことがしばしばあります。

私もデッドストックのビンテージを購入しました。数か月もしないうちにあっという間にカウンターライニングがバリバリに割れてきて、月形芯が飛び出てきそうな勢いです。あまり語られませんが、ビンテージシューズの劣化の早さは「デメリット」という言葉では表現が足らないほどの難点です。

さて、今から7年程前だったでしょうか?ガジアーノ&ガーリングでこのスタッグスエードをベルジャンシューズで仕立てた靴を販売をしていました。

「ビスポーク用で古く残っていたスタッグスエードを使ったんだよ。今はどうやっても手に入らない素材さ」と、トニーかディーンがインタビューで答えていたような気がします。

「そんな希少なものをよりにもよってベルジャンシューズになんで使うの!?英国のメーカーなんだから質実剛健!ブローグかチャッカブーツあたりで作ればいいのに!」と当時の私は勝手にひとり憤慨しておりました(笑)

ううむ、本当にもったいないことを…(※これは筆者個人の勝手な好みです)

このトリッカーズのスタッグスエードには、タン裏にライニングレザーが張られていないので、鹿革特有のシボの大きい表革を観察できます。分厚い革なのですが、硬さが一切ありません。これが鹿革の魅力です。

また、現在では絶滅してしまったこの色味も魅力です。

本国では「FOX BROWN」や「GINGER」という色表現をしていますが、このきつね色のスエードは、たとえ普通の牛スエードであったとしても、現行品で探すのは本当に至難の業です。

C.F.ステッドのオールドスナッフでも、オータムスパイスでもない、ましてダークブラウンでもなければ、ライトブラウンでもありません。

しいて言うなら「OLD FOX」とでも表現したいカラーなのです。

さて、こんなことを書いて自分でまた買いたくなったときにスタッグスエードの靴の値段が高くなってしまうのも嫌なので、ここまでにしておきます。

 

ワールドフットウェアギャラリーでは鹿の起毛革の靴がございます

そうそう。Oriental などでも鹿革の銀面を擦った正真正銘のバックスキンの製品があります。


 

Oriental Andrew【スペクテイター】60,500円(税込)

これも本当は雄の鹿でないと、Buckと呼べないのでしょうが、雄鹿ならBuckです。大昔のシューメーカーはきちんとそこのところも管理していたのかもしれません。

しかし、現在ではそこまで厳密ではありません。そういったわけで、非常にあいまいな表現ではありますがOriental においては「ディアヌバック」という表記も使わせて頂いてます。

そもそも靴用になめした鹿の革自体が今では珍しいのです。なので、銀面を擦った物でない限り、スエード仕立ての鹿革はひっくるめて「ディアスエード」と言われることが殆どです。

ディア=鹿ですからね。

何度も言うようですが、靴用に鞣されたディアスエードはかなり希少な素材です。

希少ゆえに何足もロット数として確保しなければならない既製靴において、今日ほとんど見ることはありません。

このOriental のバックスキンを使ったモデルもなかなか生産ができないのです。

ですが、WFGでは、この希少なディアスエードを皆様にお届けできるブランドがひとつだけ、とっておきであるのです。

 

話が長くなりましたので、次回に続きます…。

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